2022.05.12 – 2024.05.06
そもそもの問題意識は、オンライン参加OKとなっているハイブリッド会議にオンライン参加したら、映像が暗かったり乱れたりして見た感じよくわからないのはまだしも、ノートPC内蔵のマイクで拾ったような音声で会場内で反響して何を言っているのか聴き取れず、実質的に会議に参加したことにならないことがある、というのがあって、主催にはせめてここまではやって欲しいというか、なんかそういうようなところではある。以下、貸し会議室みたいな場所、数十人規模の会議を念頭にして(数人規模で、会議室でマイクを使用しないような場合はAnker PowerConfみたいなスピーカーマイクでいいと思うし、逆に数百人以上の規模であれば会場スタッフの技術支援も得られるはず)。
ざっくり理想的な状態とは何か
会場にいるのと同じように見聞きできる状態。しかし特に音声についてこれを実現するのは結構めんどくさく、人間の耳(というか脳)の音声処理を機械的に模倣するような話で、こちとら音響のプロであるまいし、現実的ではない(cf. カクテルパーティー効果)。
では少なくとも必要な状態とは何か
話している人の声がクリアに聞こえる状態。もう正直それでいい。
では話している人とは誰か
司会、主に話す人(講師とか、誰かはともかく演台に立つ人とか)、会場で質疑をする人、が思い当たる。会議の性質上、質疑は用紙に書いて提出など発言による質疑をしないパターン or 質疑は演台にて行うパターンはあるかも知れない。いずれにしてもどのパターンで、話す人がどこに何人いるのか確定させて次へ進む必要がある。
会場の音響設備によって場合分けをする
- 会場の音響設備を操作できる(操作を依頼できる)場合(パターンA) …会場外の音声を会場に流し、会場ミキサの音声を(会場外からの音声を除いて=マイナスワン)配信に乗せる。会場設備がある程度の規模の汎用的なミキサであれば仕様上は対応可能なことが多いはず。
- 会場の音響設備をあまり操作できない場合(パターンB)…施設側が会場を借りている人に設備をいじられたくないのでルール上禁止されているとか、会場設備はあるが会場スタッフに知識がないとか、放送向けミキサのため仕様上対応不能なこともある。具体的には外部入力だけができる場合。この場合、基本的に全て自前の機材で、音声出力を会場音響設備の外部入力に接続するだけにする(BGMを流したいとかいう要望があるからか、外部入力だけはできる会場がある)。
パターンAの場合はPCへの音声入出力はライン入力・出力さえあればよいから、PCにライン入力・出力ジャックがあればそこに接続するだけでよく、ない場合(近頃の特にノートPCはCTIAの4極ジャックでライン入力・出力が排他もしくはライン出力しか使えないことが多いと思うけど)はBEHRINGER UCA202みたいなものを使えばよい。ただしPCの機種によっては内蔵オーディオに常時ノイズが乗っていたりするので、PCにライン入力・出力があっても外付のオーディオインターフェイスを使った方がいいかも知れない。
パターンBの場合、先の検討により話す人の場所が司会席と演台の2か所であるとすると、マイク2入力のUSBミキサがあればよいことになるが、その規模だとマイナスワンができない機種もあるので、新たにミキサを調達するなら仕様の確認をする必要がある。また、マイク2入力(もしくは1入力)であればUSBオーディオインターフェイスでも代用可能であるが、ダイレクトモニタ機能がないとマイク入力をそのまま会場設備から流せないのでその仕様の確認が必要であるのと、ダイレクトモニタ機能があってもオフ・オンのみで、会場外音声との音量バランスを調整しづらい機種もある(そもそもオーディオインターフェイスのダイレクトモニタ機能は本来こういう使途を想定したものではないはず。使えるけど)。またオーディオインターフェイスはミキサではないので、2入力だとマイク1の音声が左から、マイク2の音声が右から出力される仕様のものが多く(ミックスして出力するよう切り替え可能なものもあるが)、それを会場の音響設備に入力すると例えば司会のマイクは左から、演台のマイクは右から音声が出ることになり不自然になるが、天井スピーカーしかないような会場の場合、会場設備側で左右の音声がミックスされて問題にならないこともある。またPCに入力された音声は、ZoomやDiscordは基本的にモノラル音声として扱うので同様に問題にならないが、YouTubeのライブ配信は基本的に(とは限らないかも知れないが)ステレオなので、うまく設定しないと不自然になる(昨今YouTubeはOBS経由で配信するのが主流だと思うので、OBSでモノラル設定にさえすれば問題ないと思うけど)。
話す人が3人以上の場合、もしくは会場にいる3人以上の参加者があまり主従なく発言する可能性がある場合は人数分ないし2人に1本など、手の届く範囲にマイクを設置することになる。なお、マイク3入力以上のオーディオインターフェイスも存在するが、飽くまでミキサではないので、こうした使途に向かない。
2023.02.16追記:これを書いた後にZOOM AMS-44が発売され、これは4in/4outではあるが、STREAMINGモードにすると4入力を全部MIXしてPCに送ってくれる。3入力以上(実際に3入力のオーディオインターフェイスは見たことがないのでほぼ4入力以上になると思うが)でこういう機能を持つオーディオインターフェイスは多分珍しい。
いつも使う会議室が固定、つまり常にいずれかのパターン固定になるならいいが、都度会場が変わるような場合(の方が多いと思うが)に備えることを考える。この際、パターンA用の機材とパターンB用の機材を別々に用意してもいいが、1台で済むような機材がないか、ということも検討する。なぜかというと、例えばほとんどの場合はパターンBだが、たまにパターンAの会場を使うといった場合、備品をきちんと管理できない人がパターンA用の機材を紛失するからである。いつも同じ機材であれば紛失の可能性が下がるのではないか(もっともケーブルまで同じにはならないので、ケーブルを紛失してしまえば同じことだけど)。
パターンBでオーディオインターフェイスを使う場合、ダイレクトモニタをオフにすればパターンAでも使用可能であることが多い(マイクを接続できるオーディオインターフェイスはXLR/TRSのコンボジャックであるなど多くがライン入力と排他なので、マイクの代わりにライン入力すればよい)。問題はマイクが3本以上必要なためミキサを使用するケースで、ミキサはミキサである以上、入力された音声を出力する前提があるので、パターンAのために会場設備からのライン入力を音声として出力せずにPCにだけ送る設定ができる機種とできない機種がある。特にPCに送る音声がMAIN MIXとイコールで変更ができない場合、そうした構成が取れない可能性が高い。マイク3入力以上のUSBミキサとして例えばBEHRINGER Q1202USB XENYXがあり、これはうまく配線・セッティングすればパターンAでも使える(例えば会場設備からのライン入力をLINE IN 5に入れ、USB 2-TR TO CTRL RMをオンにし、CTRL ROOMの音声を会場設備に送るとか)が、2入力までのオーディオインターフェイスを使用する場合と比べるといくらか面倒になる。もちろん本当は備品を紛失しないのがいちばんよい。
ワイヤレスマイクについて
対談のようなケースでは司会(コーディネーター)に1本、演台に2本のマイクがあるような形が想定され、いずれも有線マイクで構わないが、3本目のマイクを質疑用に使う(会場内を持ち歩く)ような場合、ワイヤレスマイクでないと不便なケースが考えられる。Amazonではいろいろなワイヤレスマイクが販売されているが、海外製品は国内で許可されていない周波数帯のことがある(国内で使うと電波法違反になるという意味)。国内で免許不要のB帯(800MHz帯)のワイヤレスマイクは広く使われているため、隣の会議室等からの混信の懸念が多少あるし、比較的安価なものは混信を回避しようにもチャンネルが変更できない機種もある。同じく免許不要のデジタル2.4GHz帯のものは到達距離も多少短く、他のワイヤレスマイクとの混信の可能性はB帯よりも低いとは思うが、Wi-Fiなどと同じ周波数帯を使っているため、それらと混信して使えない懸念がいくらかある。また、デジタルワイヤレスマイクはどの機種も遅延があり、機種によってはその遅延が大きく気になることがある。いずれも有線マイクと比べると結構高いのに満足に使えない懸念があり、まずは本当にワイヤレスマイクがないといけないのか、会議の運営方法自体を考えた方がよい可能性もある(下の写真はXvive XV-U3を接続したマイクPGA48とミキサQ1202USB)。
会場がそんなに広くなく、質疑をする人の地声が会場内では聞こえるというようなケースの場合、その地声をうまくマイクで拾うのはワイヤレスマイクをどうにかするよりもっと面倒な可能性が高い。うまく設置すればコンデンサーマイクで拾えるかも知れないが、大抵そのマイクが会場音響からの音も拾うことになり、全体として音質(聴きやすさ)を保つのが難しくなると思う。
要は金もかけたくないし有線マイク2本でよいとなれば、先に述べたようにUSBオーディオインターフェイスだったり、前出のCLASSIC PRO AM02など安価な選択肢が出てくる(ただし後者はパターンAに対応できない)。素人が自力でやってみるレベルでは、その辺が限界だと思う。
補足:質疑応答のやり方の工夫で対処
会議の性質上、質疑応答パートが必要となるが、その内容が一言一句正確にオンライン参加者に伝わらなくてもよしとする場合、司会等が「○○さんから△△の場合も◇◇でよいのかという質問がありましたが…」などのように質問(概要)を復唱することを前提として、質疑者の声を配信に乗せることを諦めてしまう手もある。ワイヤレスマイクなどの機材も不要となり、簡易な構成で実現できる。
補足:話す人が1人しかいない場合の話
ハイブリッド会議のサブ会場のようなケースなど、話す人が1人しかいないため、簡易な設備で実現したい場合(パターンBの最小構成みたいな形)。
SAMSON Q2UやAudio-Technica ATR2100x-USBみたいなマイクを使用し、そのヘッドホン出力を会場の音響設備に入力する。これらのマイクはオーディオインターフェイス内蔵なので、ヘッドホン出力からは他会場音声と、ダイレクトモニタでそのマイク自身が拾った音が出力され、PCにはマイクが拾った音が送られるので、それだけで取り敢えず使える(ただしQ2Uのダイレクトモニタ機能はオフ・オンのみで、更にiOS/iPadOSでは設定変更ができず、Windowsで最後に設定した状態が維持されたりされなかったりする。対してATR2100x-USBはWindowsではダイレクトモニタがオフ・オンのみならず音量調整もできる一方、iOS/iPadOSにはそもそも対応しているという公式の記述が見当たらないが、 前回使用時の設定を維持せず、 接続するとダイレクトモニタが常にオンになる気がするし、そのデフォルト音量が大きい上に調整できないためホワイトノイズが結構気になる)。なお、ハンドヘルドのUSBダイナミックマイク自体はこの2種を除いてほとんどなく、USBコンデンサーマイクなら似たような仕様の物はたくさん出ているし同様に使えるとは思うが、そもそもの想定が会議なので、会議にコンデンサーマイクを持ってくのはちょっと…。
補足:Zoomの場合の話
構成上マイナスワンができず、他会場音声が折り返しZoomに入力されたとしても、Zoomの場合はノイズキャンセルが働くため実際には問題が起こらず使えることがある。ただそれを前提にするのはよくない気がする。なお、Zoom以外のアプリの挙動は試したことがない。
補足:マニュアル(説明書)を読んでから買うべき
多くの機器はPDFマニュアルがWebで公開されている(サウンドハウスの商品紹介には製品マニュアルへの直接リンクがあるものが多く便利)が、ハイブリッド会議に使えるだけでハイブリッド会議のために作られたわけではないので、それに特化したマニュアルなどついておらず、メーカーによっては日本語版マニュアルがなかったり、日本語版があっても英語版マニュアルの方がマシだったりするので、事前にマニュアルを読み、買っても大丈夫そうかよく考えた方がよい。